きみに想いを、右手に絵筆を

 白河は【待ってて】の言葉通り、教室に一人きり、自分の席に座っていた。

 声を掛けて階段を登り、四階の美術室へと戻って来る。

 一瞬、杏奈がいたら気まずいかなと心配になり、後ろ扉を少しだけ開けて確認するが、美術室にはもう誰も居なかった。

「えっと……。大した絵じゃ無いんだけど」

 そう前置きしてからガラガラと扉を開け、白河と美術室に入る。

 奥に立てたイーゼルに歩み寄り、その姿を目に捉えて愕然とした。

 ちゃんと立て掛けて置いたキャンバスは床に落ち、モデルとなった白河の顔にザックリと裂いたような傷が入っていた。

 机に置いたままの油絵具もペインティングナイフも床へとぶちまけられている。

「……っ、酷い、誰がこんな」

 白河はこの光景に息を飲み、瞳を潤ませた。

 俺は冷静に判断し、肩からスウッと力が抜けるのを感じた。

 一年の時にあった嫌がらせと酷似していて、呆れて吐息をもらした。

 あの時と違うのは、俺がこの光景に"慣れている"という事だ。

 数回同じ目に遭わされるとメンタルも(はがね)のように強くなる。

 その場にしゃがみ込み、散らばった画材に手を伸ばした。

 カラカラの油絵具を拾い上げ、箱に一つずつ仕舞っていく。