きみに想いを、右手に絵筆を

「うるせ」

「ガラじゃないとか言ってたくせに」

 さっきまで俺がいたイーゼルの前に立ち、杏奈は不満げに口を尖らせた。

「俺の絵見て感動してくれたやつがいるんだよ」

「ふぅん……? それって白ゆり?」

「あ……」

 あはは〜、バレてーら。

 若干恥ずかしくなって、俺は頭をかいた。

「デレデレしちゃってバッカみたい。こんなの顔だけ女じゃない」

 杏奈らしくない攻撃的な口調に少しだけムッとなる。

「和奏の絵を褒めるのだって、近付くための口実で、」

「俺の絵はともかく。あの子の事悪く言うな」

 すれ違い様に、杏奈の肩にポンと手を置いた。

「……あ。あたしが勧めた時は描かなかったのに……何で?」

 彼女らしくない弱々しい声が届き、ズキ、と後ろ暗い気持ちに満たされた。

 そう言われれば確かにそうだ。

 杏奈はこれまでも散々、俺を励ましてくれた。

 描く意欲を持たせるために、モデルになろうか? と冗談まがいに言われた事もある。けれどその度に断ってきたのが俺だ。

 だからきっと面白く無いのだろう。

「……ごめん」

 振り返る事が出来ず、俺は杏奈を置いて一年三組の教室へと走った。