きみに想いを、右手に絵筆を

 やべ。朝ごはん食べ損ねたからもう空腹だ。まだ十一時なのに。

 腹に手を当てて、遠慮がちに尋ねた。

「あのさ。お昼、なんか買って食べる? 俺、急に腹減っちゃって……」

 若干恥ずかしくなって頭を触ると、白ゆりはパァッと目を輝かせた。

「そ、それじゃあっ。お弁当食べましょう!」

「え……」

 弁当?

「今日の朝、ママと一緒に作ったんです。ママに味見して貰ったから味も保証します。和奏先輩、良かったら食べて下さい」

 う。嘘だろ? マジで?

 白河は持っていた大きめのトートバッグから、二、三人用のお弁当箱を取り出し、布ナフキンを広げて置いた。

 はい、と割り箸を渡されて率直な感想がもれた。

「俺……。女子から弁当とか貰ったの初めて、今すごい感動……」

 マジな話、ちょっと泣きそうになった。

「そうなんですか?」と言い、白河は花のようにうふふと笑う。

 ああ、何か俺。今一番幸せかも。

 白河が自分で作ったと言う玉子焼きは、ちょっぴり甘くて懐かしさを覚えた。

 弁当を食べながら、つくづく良い子だなぁと思ってしまう。

「うん。美味しいよ」

 箸が進む俺を見て、白河も割り箸を割った。笑顔で食べる白河は幸せそうな顔をしていた。

 その表情を見て、俺は鞄からスマホを取り出した。不意打ちでパシャっと写真を撮る。