きみに想いを、右手に絵筆を

「見て? あの子凄い可愛い」

「本当だ。隣り彼氏かな? お似合いだね〜」

 女の人の、そんな囁き声すら耳に届いた。

 正直言って気分が良い。有頂天になり、俺の鼻は高くなるばかりだ。

 ふと彼女が肩に掛けた大きめのトートバッグが気になり、首を捻った。

 中に着替えでも入っていそうな荷物だなと感じるが、質問は(はばか)られた。

 公園のベンチに座り、早速目的のデッサンに取り掛かる。

 とにかくクロッキー帳に何枚も書くつもりで彼女を見つめ、鉛筆を走らせた。

 キャンバスに描く際の構図なんかは、彼女の雰囲気を掴んでから考えるつもりだ。

 デッサンを始めて最初のうちは、白ゆりも公園で遊ぶ子供たちを眺めていたのだが、急にこっちが気になったのか表情が堅くなり、ついには緊張で固まってしまった。

「何か話しよっか?」

 俺は少しだけ手を止めて、彼女に提案する。

 白ゆりの人となりを知るチャンスだと思った。

「……あのさ。白ゆりは男が苦手だって聞いたけど?」

「しら、ゆり……?」

 彼女はこてんと首を傾げた。

「え、ああ、いや。白河! 白河って呼ぶな?」

「……? はい」

 てか、みんな陰でそう呼んでるのに気付いてないのかな?