「ほのか?」


 大好きな甘い声に、ハッと我に返る。


 でも、私の瞳に綾星くんが映った瞬間
 恥ずかしすぎて瞳を逸らした。


 ど……ど……どうしよう……


 自分の気持ちに気づいちゃったせいで。

 綾星くんの顔を
 見れなくなっちゃったよぉ。


「ごちそうさま。
 俺、食器洗うから」


「い……いいよ。
 私が洗うから……
 綾星くんは『ドロ痛』読んでて」


 一向に、綾星くんの瞳を避ける私に
 違和感をおぼえた綾星くんがピシャリ!


「俺にさ、言いたいことでもあるわけ?」


 ひぃえ!!
 言いたいこと?


 あるよ。
 あるけど……

 勇気がなくて言えないよ。

 綾星くんのこと。
 好きになっちゃったみたいだなんて。


「帰った方がいい? 俺」


 ムスッとした声に焦って、顔をあげる。


 綾星くんの漆黒の瞳が
 まっすぐに私を見つめていて。

 堪えられなくて
 また私が瞳を逸らした。


 綾星くんが好きってわかった途端。
 私のドキドキが止まらなくなっちゃった。


 何を話していいかわからない。

 どんな顔をして
 綾星くんを見ればいいかわからない。


 でも……
 帰って欲しくない……


 自分の思いを素直に言えなくて。

 言っちゃったら
 この関係が終わっちゃうのが怖くて。

 綾星くんにどんな言葉を
 伝えていいかわからない。


 うつむいて黙ったままの私の耳に
 呆れたようなため息が届いた。


「明日早いから。帰るわ」


 軽蔑されたような声。

 私のことを嫌いになっちゃったような声。

 もう、私の前なんかに
 現れてくれないような声。


 私を視界に入れないように、
 荷物をまとめ
 綾星くんはリビングのドアを出て行った。


「やだ……」


 涙と共に吐き出された私の想い。

 か細すぎて
 綾星くんになんて聞こえない。


「帰っちゃ……やだ……」


 玄関のドアが閉まる音が聞こえた。


 私の恋が終わった。
 そう思わせるほど、痛々しい音だった。