歌い終わり
 最後のコードを優しくはじいた瞬間
 耳障りな声に、現実に引き戻された。


「綾星さん!! 
 良い!! すごく良い!!
 苺、感動して涙が出ちゃいましたぁ!!」


 オーバーに手を叩いてはしゃぐ苺。


 ギターの余韻、楽しめよ!って
 突っ込みを入れたくなったけど我慢。


 マネージャーは目をつぶったまま
 大仏のように動かない。
 

「どうでしたか?」


 俺の声を聞いて
 やっとマネージャーの目が開いた。


「綾星、期待以上なんだけど」


「へ?」


「やだぁ。綾星に感動させられるなんて、
 予想外だったわ」


 それって……

 ハイパー毒舌マネージャーが
 俺の歌を認めてくれたってこと?


 やべっ。
 嬉しすぎるんだけど。マジで。


「じゃあ、次の次のライブで
 披露していいんですか?」


「そのことなんだけどさ……」


 なんだ?

 マネージャーのモジモジした態度。


 いつもなら魔王並みの上から目線で
 堂々と俺に命令してくるのに。


 3日前にも感じたけど。
 マネージャーの態度に、
 明らかに違和感満載。


 その違和感が的中。
 
 マネージャーの口から、
 とんでもない言葉が飛び出した。


「苺と組みなさい」


「は?」


「だから、今の歌。
 綾星と苺のデュエット曲にするから」


「は? は?」


「今ので、確信した。
 綾星と苺の声、絶対に相性いいから!」


 何、言っちゃってんの?
 このマネージャー。


 俺と苺が組む?
 二人で歌う?


 絶対無理。
 100%無理。


 苺は、生理的に受け付けない。


 声を聞くだけで。
 上目づかいで見つめられるだけで。

 耳も目も、拒絶反応を起こすから!!



「信じられな~い!」と
 飛び跳ねながら喜んでいる苺。


「マネージャー……
 この歌は……」


「もう決定したから」


 俺の声なんて
 聴こうともしないマネージャー。

 だから、俺の意志はどうなるんだよ!!


「次の次のライブは、
 アミュレットとフルフルフルーツの
 合同ライブにして……
 良い!! 絶対に当たるわよ!!」


 だから、勝手に決めんなって!


「綾星、苺。
 明日から学校が終わったら
 即行スタジオで練習するから」


 何……この展開は……


 ライブまでの10日間。
 苺と顔を合わせなきゃいけないわけ?


 俺たちの活躍する姿が
 マネージャーの脳で
 勝手に再生されているらしい。


 こういう時は
 何を言っても跳ね返される。
 100%。確実に。


「練習……明日からでいいですよね?」


 とりあえず今だけは
 現実逃避をしたくて。


 急いでギターをケースに入れ、
 女同士の声が飛び跳ねている
 スタジオから、逃げ出した。