☆綾星side☆

***

 眠い。
 マジで眠い。


 ただいまの時刻、朝8時15分。


 鏡張りのダンススタジオ内。


 そりゃ、欠伸も止まんねえよな。

 昨日の夜
 一睡もできなかったんだから。

 
 ほのかとの急接近に浮かれ。

 ほのかと御曹司の想いの強さに、凹み。

 恥ずかしがって顔を赤らめる
 サイコーにかわいいほのかを思い出し。


 自分のベッドの上で
 ゴロンゴロン転がっているうちに、
 朝を迎えてしまった、俺。


 開きたくないと脱力する瞼を
 どうにかこじ開けていると

 ランランと飛び跳ねるようなスキップで
 俺に近づく影を感知。


 逃げよう。
 スタジオの外に逃げよう。

 そう思った時にはすでに
 朝日並みの眩しい笑顔に捕まっていた。


「あやあや、おはよ~」


「おはよ……」


 春輝の奴。
 いつも以上にテンション高くねぇ?


 俺に何か言いたそうな瞳。

 今にもとんでもない言葉が
 飛び出しそうな口元。


「僕って、心が広いでしょ?」


「は?」


「だって、あやあやの本性
 暴露しないであげたじゃん。
 ほののんに告白できなかったのに」


 昨日俺は
 ほのかをベッドで寝かせてから
 春輝のスマホにメッセージを送った。


 『今、ほのかの部屋にいるけど。
  ほのかが寝ちゃったから。
  告白はムリ』って。


 そしたら春輝から
 脅迫続行を知らせる返事が。


 『次回必ずね』って。


「春さ、なんでこんなことするわけ?」


 目の前のニヤニヤ顔の春輝に、
 わざと嫌みたっぷりの声を
 浴びせてみた。


「ん?」


「ほっとけよ。俺のことなんだからさ」


「だって放っておいたら
 絶対に何もしないじゃん。あやあやは」


 アハハと無邪気に笑う春輝に
 言い返す言葉も見当たらない。


 だって、その通りだって
 自分でもわかっているから。