「ど……どうぞ」
私の声を聞いて玄関に入ってきたけど。
綾星くん、なんか怒ってるよね?
私がライブを見に行っちゃったことが嫌だった?
それとも握手会に参加しちゃったのがダメだった?
顔色を伺うようにオドオドと綾星くんを見上げてみたけれど、鋭い瞳で視線がはねのけられた。
とりあえず謝らなきゃ。
「ごめん……」と声を震わせた直後、予想外の声に驚き私の呼吸が止まる。
え?
綾星くんが謝った?
玄関で靴を履いたまま、笑顔も全くない綾星くん。
ごめんってなんのこと?
「えっと……」
「握手会の時……ほのかのこと知らないふりして……」
「え?」
「ファンの子達の目があるから、知ってるふりできなかった……」
そのことを謝るためにわざわざ来てくれたの?
「私もごめんなさい。ライブに行っちゃって」
「春輝がチケット入れたんだって?」
「ポストに入ってた……」
「春の行動、俺でも理解不能だから。迷惑だったよな?」
なんでそんな、自信なさげなに視線を落としてるの?
悪魔モードの時はもっと瞳を輝かせるのに。
「迷惑なんかじゃ……なかったよ……」
でも……
本当に私なんかが行っていいのか、すっごく悩んだ。
そんな言葉を飲み込む私。
玄関に立ったまま、私たちの間に気まずい時間が流れる。
どうしよう、リビングにどうぞって誘う?
でも忙しいだろうし、迷惑だよね。
「俺、帰る。それだけ伝えたかっただけだから」
どうしよう、帰っちゃうよ。
きっと綾星くんとは、これでお別れになっちゃう。
綾星くんに言いたいことがたくさんある。
聞いて欲しいこともたくさん。
教えて欲しいことも。
あの帰り際のキスのこと……



