まいったなぁ。
そんな目をされちゃうと『失恋が苦しい』なんて弱音、簡単に吐けなくなっちゃうな。
失恋の痛みをごまかしながら、オムライスを口に運ぶ。
オムライスを食べ終えふと壁にかかった時計を見ると、夜の9時を回っていた。
「そろそろ帰ります」
「ああ」
「いろいろありがとうございました」
多分もう、綾星くんに会うことはない。
こんなに迷惑をかけちゃったし。
お弁当屋さんの自動ドアをくぐる度胸なんて、持っていないから。
「送ってく……」
なぜか綾星くんの口から漏れた言葉は、語尾が消えかけそうなほどか細かった。
「え? いいですよ。一人で帰れますから」
「外は暗い。危ないだろ?」
「近いので大丈夫です」
「戻ってるじゃん」
へ?
「禁止って言ったよな? 敬語」
「あ……」
「あじゃねえし。ほら、行くぞ」
すらっと上に伸びた背中が、私の返事も聞かずにリビングの外に消えていく
私は慌てて彼の背中を追いかけた。



