「明日会社に行ったら一発殴ってやれば?」
フフフ。
殴るなんて発想、私にはなかったな。
「社長の息子を殴ったら、私はクビだね」
「会社で顔合わせんのしんどいだろ?」
「大丈夫」
「強がり?」
「彼ね本社勤務だから。めったに私のいる支店には来ないの」
「アイツが副社長をやってる会社で、働き続けるつもりなのかよ?」
「辛くなったらやめるかな。でもすぐには辞められない」
「なんで?」
「私の仕事を誰かに引継ぎしてからじゃないと、みんなに迷惑かけちゃうし」
「真面目か」
綾星くんのその瞳。
意味不明な行動をする子供に呆れているみたいな、優しい瞳。
その瞳の奥の奥に悲しい雫みたいなものを隠しているようで、見ていてなぜか辛くなる。



