綾星くんのわかりやすいほどの驚き顔に、笑いをこらえるのが大変。

 ここで笑ったら、また悪魔モードで怒られちゃうかな。

 蒼吾さんの話をしているのに、笑いまで出てくる自分が信じられない。



「ラクトって知ってる?」


「ウサギのマークのスポーツウエアメーカー」


「彼ねその会社の社長の息子なの」


「はぁぁぁぁぁ?」


「そんなビックリすることかな?」


「びっくりするに決まってるだろ? そんな金持ち御曹司と付き合ってたのかよ」



 そうだよね。

 驚くよね。

 私自身が一番驚いたから。

 付き合ってほしいって、蒼吾さんに告白されたときは。



 暗い空気なんて作りたくなくてあえて微笑んでみたけど、綾星くんは脳がパンクしちゃたみたい。

 鋭い切り返しが飛んでこなくなっちゃったから、きっとそう。


 綾星くんが突っ込んでくれないと、失恋の悲しみに引きずりこまれちゃうんだけどな。



 なぜか笑っていられた私の頬がだんだんと引きつってきた。


 深いため息が漏れ、心がどんどん沈んでいくのがはっきりわかる。


 そんな私の心を泥沼から引き上げるように、綾星くんの声が飛び込んできた。