いつの間にか涙は止まっていた。
でも、涙の後には虚しさの塊が残った。
自分の心の中だけじゃ消火することができない、虚しさの炎。
心を癒してくれるような、蒼吾さんの優しい笑顔が大好きだった。
私なんかのことを『かわいい』って褒めてくれる声が、大好きだった。
こんな私でも幸せを感じてもいいんだって思わせてくれた。
でもやっぱり私は、ただの2番目。
誰かの1番になれたことなんてない。
前の彼の時もそうだった。
浮気現場を目撃して、私が問い詰める前に言われた。
『お前自分のこと、かわいいと思ってるわけ?』
思ってないよ。
思ってないけど……
付き合ってって言われると、勘違いしちゃうんだよ。
好きになってもらえたのかなって、心が踊ってしまうんだよ。
そして最後に言われた。
『ほのかは家事マシーンとしてそばにおいてやっただけ。好きでもなんでもない』って。
蒼吾さんは前彼と違う。
誠実で優しい人。
だから信じてもいいかもって思えたのに……
やっぱり私のことを好きになってくれる人なんて、この世にはいないんだ。
「ほら、できた」
再び溢れていた涙が止められないまま、私はオロオロと顔をあげた。
「ほれ!」
不愛想な声と共に突き出された、ティッシュの箱。
声になってない「ありがとう」をなんとか伝え、素直に受けとる。
「涙拭いたら、テーブルのとこに座れよ」
コクリと頷く私に強めの声が飛んできた。
「早くしろ、たまご固まっちゃうから」
ノロマながらも私なりの急ぎ足でテーブルに向かうと、トロットロのふんわり卵がのったオムライスが用意されていた。
アゴしゃくりで促されるように、店員さんの斜め前の席に座る。
目に止まったのは、卵の上にケチャップで書かれた文字。
『amulet』



