ヘッドフォンから流れた曲と、同じ曲を歌ってくれているのに。
歌っている人が違うだけで、なんでこんな心に刺さるんだろう。
店員さんの空気を含んだ切ない歌声が、私の心に空いた穴を通り過ぎていく。
何度も何度も通るたびに、温かさみたいなものを埋め込んでくれているのに。
その温かさを感じるたびに、もっともっと心が苦しくなっていくのは
なぜだろう。
涙が溢れて止まらなくなるのはなぜだろう。
甘さは一切含んでいない、苦しさの塊みたいな粘りのある歌声。
涙で滲んだ瞳のせいかな。
ステージに歌声を響かせている店員さんの表情が、私以上に苦しく見える。
店員さんの辛そうな表情を受け止める余裕なんて、私にはなくて。
瞳に入らないように、三角座りで膝に顔をうずめた。
ギターの音が消えた。
耳に入ってくるのは、私に近づく足音のみ。
涙でぐしゃぐしゃな顔を見られたくない。
膝にうずめた顔をあげることなんてできない。
ヒックヒックと肩を揺らす私の前で止まった足音。
微笑みながら言葉を紡いでくれているのがわかる温かい声が、頭の上から降ってきた。
「待ってて。オムライス、作ってやるから」
遠ざかる足音。
私はなんの返事もできないまま。



