「自動ドア、危ないから」
かすれた声が耳に届くと同時に引っ張られた、私の腕。
離してと抵抗したいのに、店員さんの手のひらから伝わる温もりに
すがりたい自分もいる。
腕を引っ張られたままお店を出た。
連れてこられたのは、隣接する家の玄関。
「上がって」
「ここって……?」
「俺ん家」
玄関のライトに照らされた店員さんは、なぜか瞳に力がなく、頬が桃色に色づいているのがわかる。
見上げたままの私と目が合った。
手のひらで口元を隠しながら瞳を逸らす店員さんを、キョトンと見つめてしまう。
「だから、上がれって」
「知らない人の家に……お邪魔するのは……ちょっと……」
「お前さ、どこ帰るわけ?」
「家……ですけど……」
「一人で泣くつもりだろ?」
「……」
「付きあってやる」
「え?」
「お前の失恋話、この俺がが聞いてやるって言ってんの」
言葉はきつい。
それなのに優しさを感じてしまうのはなぜだろう。
「いいです……慣れてますから……ぼっち……」
「慣れるな、そんなこと」
「……」
「慣れすぎると吐き出せなくなるからさ……辛いって……」
まるで自分に言い聞かせるかのよう。
瞳を悲しく光らせた店員さん。
苦しそうに歪んだ口元が、私の心に細い針を突き刺していく。



