嗚咽混じりの声を殺すように口元を強く塞いでいると、頭の上に手のぬくもりを感じた。
涙目のまま見上げてみる。
苦しみを宿したような瞳が、切なそうに私を見つめていた。
「辛いよな?」
え?
「これ聴いてて」
ヒックヒックと涙を抑えられない私に、優しく微笑んでくれたエプロン姿の店員さん。
私の前にしゃがみ込み、私の耳にヘッドフォンをかぶせてくる。
「これ……って……?」
「恋のお守りソング」
ニヤリと子供っぽい笑顔を向けられ、「ついて来て」と手を引っ張られた。
ヘッドフォンから耳に届く歌声が、優しすぎて。
その歌が、えぐられたままの心の穴を必死に塞いでくれているようで。
どんなにまぶたに力をいれても、また涙が溢れてくる。
『長谷川 綾星』
刻まれた名札がエプロンの胸元についていて、涙で潤んだ視界でもはっきり瞳に焼き付いた。
手を引かれ連れてこられたのは、お弁当の容器やおしぼりなどが詰まった備品庫。
私が一人入って、なんとかドアが閉まるくらいの狭い空間。
店員さんはヘッドフォンを私の耳からずらすと、柔らかい声を発した。
「ここにいて」
「でも……?」
「俺がいいって言うまで、絶対に出てきちゃダメだよ」
「……」
「返事は?」
「……はい」
涙を飛ばしながらも頷く私を見て、安心したように微笑んだ店員さん。
また私の耳にヘッドフォンを戻し、ドアをゆっくり閉めた。
まるで私に、耐えられない現実を見せないでくれているかのように。



