「ダメだよ、指なんて切ったら。血が止まらなくなっちゃうよ」
「むしろ切って」
「え?」
「今すぐ」
命令にもとれる強めの声が、私の耳の鼓膜にを揺らす。
ちょっ、ちょっと待って!!
どんな気持ちで言ってるの?
綾星くんの指を切ってなんて。
マンガ『ドロ痛』の1巻。
レイジ君が雪ちゃんに言い放ったあのセリフが、脳内に蘇る。
『殺したいほど好き、お前のこと』
さすがに私も、そのページを開いた時は恐怖をおぼえたよ。
雪ちゃんを殺したいほど好きって、ニコニコ笑顔で言い切ったレイジ君に。
でもあれはマンガだし。
雪ちゃんが殺されるようなサスペンスホラーじゃない。
レイジ君が雪ちゃんを大好き大好きっていうお話。
でも私はマンガの世界にいるわけじゃない。
綾星くんの家のキッチン。
しかも、後ろから抱きしめられた状態。
「本気で言ってるの?」
指を切ってだなんて。
オドオドと見上げると、悪魔100%の意地悪スマイルで綾星くんがクククと声を出した。
「マジ」
ひょえ!!
本当に切って欲しいってこと?
「で……ででで、できないよ、そんなこと……」
「だって、ほのかが俺の指を切ったらさ……」
切ったら……なに?
「舐め続けてくれるだろ?」
「え?」
「血が止まるまで、俺の指」
む……むむむ……ムリです。
そんな恋愛ハードルが高すぎること、私にはできない。



