洗面台の前、鏡の中の自分と目が合う。
なんてひどい顔。
苦しくて。
悔しくて。
現実だと思いたくなくて。
でも蒼吾さんを信じたくて。
私の隣でずっと微笑んでいて欲しくて。
いろんな感情に押しつぶされた私の顔は醜すぎて、見ていられないほど崩れきっている。
ダメだ……
涙を止めているの……
もう限界……
だけど涙なんて流したらダメ。
目が真っ赤になったら、蒼吾さんの元に戻れなくなっちゃう。
涙はダメ!
絶対にダメ!!
『出ないで』と必死に脳に懇願。
でも素直すぎる涙腺は、言うことなんて聞いてはくれない。
だって洗面所にいる私の耳に、二人の声が入ってきちゃうから。
『先週末も、美香に会ったんですって?』
『……はい』
『あの子の部屋、綺麗に片付いてる?』
『相変わらず、美香は片付けが苦手みたいですね』
『ごめんなさいね。そういうところ私に似ちゃって』
彼女の部屋……
行ってるんだ……
それはそうだよね。
本命だもん。
私なんて1年付き合ったのに「いとこ」で片づけられちゃう、浮気相手だしね。
さすがに辛いな。
私じゃ蒼吾さんに釣り合わないってわかっていたけれど。
蒼吾さんの口から紡がれた『大好き』も『結婚しよう』も、心なんて込められてなかった。
私が勝手に喜んで、真に受けちゃった。
そういうことだよね?



