「結婚……するの?」
「結婚?」
「だから……御曹司と……」
綾星くんの声が切なく空気を震わせて、私の感情に甘いしずくを落とす。
「……しないよ」
「え?」
「苺さんに変な誤解をされたくなくて、あの夜道で結婚するってウソついちゃっただけだから……」
「誤解って何のだよ?」
綾星くんの背中越しの声。
言葉はきついのに、なぜか弱々しく耳に溶ける。
私は心にずっと刺さり続けていた言葉を、綾星くんに投げかけた。
「まだ……付き合ってるの?」
誰と?という声と共に振り返り、私に体を向けた綾星くん。
目を細めた綾星くんの表情が思ったより弱々しくて、私は絡んだ視線をすっと外した。
これ以上、苺さんのことなんて聞いちゃダメって思ったけれど、ドキドキに急かされ、口を抑えることができない。
「だから……苺さんと……」
私と綾星くんの間に流れる息苦しい空気。
少し吸い込むだけで、肺が押しつぶされたように痛む。



