メイク台の上に腕を乗せ
 顔をうずめていた時、
 春輝の声が聞こえてきた。


「あやあや、ちょっといい?」


「何?」


 顔をあげる気力も湧き出てこない俺に
 向けた春輝の声は、
 地を這うように低くて重苦しい。


「本当にステージで歌うの?
 苺ちゃんと二人で」


「歌うに決まってんだろ」


「やめてよ。歌うの」
 

「今更、歌わないとか
 ムリに決まってんだろ。
 もう、最終リハ終わらせてんだから」


「じゃあ、僕が頼んできてあげる。
 その歌、ライブで歌うのをやめてって」


「は?」


「大丈夫だよ。
 マネージャーには
 僕が怒られてあげるから」


「春、スタッフに迷惑かけんな」


「だって……まだ、間に合うから……」


「意味わかんねぇ。
 リハ通りに歌うからな。俺は」


 机にうずめていた顔をあげ
 春輝を睨みつけたけど。
 すぐに、後悔した。

 
 なんだよ、春輝の奴。
 なんで、泣いてんだよ。