「あ、絢くんだ…」
定時を過ぎ、帰ろうとしていると前を歩く絢くんがいた。
つい話しかけようとしちゃったけど、ここはぐっと我慢。
バレンタインの日に嫌な思いさせたくないもんね。
「絢都くん、お疲れ様〜!」
…え?
「葛西さん、お疲れ様です」
あの人は…確か絢くんの先輩で、絢くんがまだ入社したての時お世話になったって言ってた女の人だ。
「今年も大量だね〜!彼女さんとか妬かないの?」
絶賛やきもち中です。あなた方の後ろで!……なんて、言えないけど。
「彼女なんていないですよ」
……こんなので傷つくな、私。
なんの為に出勤時間をずらしたのか、なんの為に社内では会話禁止にしたのか。
それは全部“私の為”だって、絢くん前に言ってたじゃん。

