いつもの口調でそう言うと、下がり切った私の視界に、成瀬くんのきれいな手が伸びてきた。
「え…」
「さっさと立てよ」
そのまま私の手を取ると、男の人の力で、いとも簡単に私を立ち上がらせた。
「…あ、ありがとうございます…」
「ん」
成瀬くんはあくびをしながら、軽く伸びをした。
「あの……どうしてここに…?」
そのきれいな横顔に問いかける。
「暇だから」
「えっ…」
想像していなかった回答に、私は少しの間フリーズした。
「…って、成瀬くん、リレーもうすぐじゃないですか…?」
そう、私が成瀬くんを探していた理由……すっかり忘れていた…
選抜リレーメンバー招集のアナウンスはまだされていないはずだから………よかった、見つけられて…
「…あー、もうそろか」
窓の外のグラウンドの様子を確認した成瀬くんは、行くか、と外に向かい始めた。
「リレー、頑張ってくださいね…!」
私も成瀬くんのあとを追って、物置を出る。
その背中に声をかけると、成瀬くんは振り返った。
「…これやるよ」
「…え…?」
そして差し出されたのは、成瀬くんが手に持っていたペットボトル。
「思ったより甘くて無理だった。おまえ甘いもん好きだろ」
それを私に持たせると、成瀬くんはすぐそこの階段を降りて行った。
自分の手の中にあるペットボトルを見る。
中身はコーヒーみたいだけど………僅かに減っているのを見て、私は硬直した。
………え、え……さっき成瀬くん、甘くて無理だった、とか言ってたよね………?
理解した途端、ペットボトルを持つ手が震えた。
…な、成瀬くん…………!!!


