「あ」

「………え……」



急いで図書室に戻ろうと、また廊下を小走りで進みかけた時、背中から声がして足が止まる。


恐る恐る振り返ると、背の高い男子が1人立っていた。


「…あ、やっぱりそうだ。よかった人違いじゃなくて」


そう言って爽やかに笑ったその人は、見覚えがあった。


「見覚えある子いるなと思って、つい」


練習着なのかユニフォームなのかはわからないけれど、何かの部活中なのか……膝にはサポーターらしきものもついていた。


「…あ、俺バレー部で、今ちょうど休憩入ったところ」


……って、いけない、無意識のうちに見過ぎてた…きっと私があまりにサポーターを凝視してしまったから……


「…す、すみません…」

「…何で謝るの?」


小首を傾げたその拍子に、額から汗が流れ落ちた。


「…い、いえ……あ、朝井先輩……バレー部だったんですね」



数回の短い会話から名前を思い出したけれど……合ってたかな…いや、合ってるはず……名前だけは、間違えないようにっていつも気にしてるから……


そう思い先輩を見上げると、きょとんとした表情で私を見ていた。

……え、嘘、まさか名前間違ってた…………?



「すごい、嬉しいな、俺の名前知っててくれたんだ」


さっきまでの表情から一変して口角を上げてそう言った先輩は、Tシャツの襟を引き上げて顎に滴る汗を拭いた。



「…あ、はい…」


……よ、よかった……合ってた……仮にも、初対面で助けてくれた人なんだから名前を間違えるなんて絶対ダメだし………



「…あ、今更だけど、名前聞いてもいい?」

「……え…?」

「そういえば聞いてなかったなって思って」

「……あ、宮藤柚、です…」

「柚ちゃんね」

「っ、!」


男子に、名前にちゃん付けされるなんて、いつ以来だろう………

あまりにも先輩がナチュラルにそう呼んだから、驚いてしまった。