「まどか。俺の名前 知ってる?」

中井さんは ゆっくり歩きながら

私の 耳元で 囁く。


「祥太。」

身体中が 可笑しくなるほど 好きなんて。

私の声は 微かに震えていた。


「もう一回 呼んで。」

「祥太…祥太。」

私は 堪らずに 祥太の腰に 抱き付く。


身体が 小刻みに 震えて。

立っているだけで 精一杯の私。


「まどか。ちょっと 座ろうか。」

祥太は 小さな 児童公園に入ると

私を抱いたまま ベンチに座らせた。


「ごめんなさい。私 まだ 彼と別れてないのに。」

「でも 俺のこと 好きでしょう?」

「うん。」

「震えるくらい?」

「うん。」

「彼氏と 別れてくれる?」

「うん。」

「まどか 大丈夫?」

「だって。私 祥太が好きだから…」


ブルブル震える私を 祥太は ギュッと 抱き締めた。


「キスは 別れてからね。」

祥太が そう言った時 

私は 堪えていた涙が 溢れ出す。


大きく 肩が揺れて しゃくり上げる私を

「泣くなよ まどか。」

と言って 祥太は 強く抱きしめた。