残業がなくてもなんとなく気が重いまま

帰宅途中の電車内で考え込んでいた温子は

降りる駅を乗り過ごしてしまった。

普段は利用しない駅のホームに立ち

家路へと急ぐ周りの人たちが通り過ぎてからベンチの一つに座った。

「想いがあるから付き合えるけど、私は彼を信頼してないから不安なだけだ。」

そう思った。

純一や大おばあ様、誰のせいでもなく

自分の気持ちが単に弱々で定まっていないだけだ。

誰かを好きになることにほんわり感だけで

相手が納得するわけがない。

逆の立場なら言動にもっと強さがないと対等に付き合えないとも思った。

「純一に謝ろう。」

その場ですぐにメールを送信した。

恐らく仕事中であろう純一からの返信を待たず

反対車線へ向かった。

するとスマホが振動した。

彼からだ。

「はい。」

「温子さん、今大丈夫ですか?」

「純一、私謝りたくて、ごめんなさい。」

「今、少し話せますか?」

「大丈夫、ホームだから。」

「良かった。今度の週末絶対会いましょう。」

「ありがとう。私、あなたに対してとても失礼な態度だった。改めます。」

「温子さん、今すぐ会いたいです。」

「クスクス、お仕事中でしょ、無理しないで。あさっての土曜日楽しみにしてるから。」

「先日の温子さんのスーツ姿に惚れ直しましたよ。」

「あら、すごく嬉しい。」

「それじゃ、土曜日に。またメールします。お気をつけて帰ってくださいね。」

「ありがと、純一。電話嬉しかった、声が聞けて。じゃ、お仕事頑張ってね。」

スマホを切って温子は今のほんの数十秒の会話だけで

モヤモヤしていた気持ちがスッキリと晴れた。

自分はなんて単純な女なのだろうと心の中で笑った。