「至急、ハナとフウライを呼べ。オブシディアンとシープもだ。そして、ルナを連れて来い。至急だ!」

リュウキは、リュウキ専属の隠密に命じ


この場に、ハナとフウライを呼び出し
まず最初に何故ルナの異変について。そして、ルナの治療を最優先にしつつ、今、起きた出来事を手短に話した。

ハナは、何故か苦痛にもがき高熱で魘されているルナに寄り添い、悔しく感じていた。

…息子がこんなにも苦しんでるというのに母親である自分が何もできないなんて、ただただ側にいて無事を祈るしかできないなんて!
…こんなに苦しんで…代われるもんなら代わってやりたい、と。


「…つまり、その鬼は自分の都合の為だけにルナを利用したって事かい?そして、ルナはその代償でこんなにも苦しんでる…。」


ーーーーー

もう、10年以上前になる。いきなり、ルナがハナの前に現れ

『未来から来た、母ちゃんの子供だぜ!ルナってんだ。どういう訳か分かんねーけど、気がついたらここにいた。
あと、それ以外記憶がないんだ。だから、世話になんぜ!』

なんて言ってきた時は、最初こそ信じたらなかったが何だかんだで世話して。フウライと恋人になる前に、ルナを紹介した。

その時に、フウライは一つ年上の少年に
「お!父ちゃん、若っけー!」
って、元気いっぱいの笑顔を向けられた時は驚いたと同時に、コイツ…頭おかしいのか?って、不審者のようも思ってしまっていた。

その頃には、ハナの母性本能が働いてかハナはルナの事を本当の息子のように思い接していたし、ハナとルナの信じられない話も聞き

それもあって仕方なくではあるが

そんな筈ある訳ないだろうと思いつつも、ハナが言うから仕方なく、フウライの使えるありとあらゆる魔導でルナを調べてみた。

最初は、適当に。だが、それでも自分達が親子である結果が出てしまい、次は丁寧に念入りに調べたので間違いない筈だ。


「…し、信じられないけど、ルナは俺達の子供で間違いない。それに“時間”もおかしいから、時空の歪みか何らかの事情でこの時代に迷い込んでしまった可能性がある。
多分、ルナの記憶のほとんどが無いのもその影響からくるものかもしれない。」

なんて、言ってきた時には、ハナは天にも登るような幸福を感じていた。

何故なら、ハナは子供ができない体だったから。だけど、フウライとルナの話を信じるならば、未来で奇跡が起きルナという宝を授かる事ができたという事だ。

もう、無理だと思っていた諦めていたというのに、こんなに嬉しい事はないと。ハナは生まれて初めて神に感謝したのだった。

そこで、あまりの喜びに涙を流した事は言うまでもない。


ーーーーー

フウライもまた、国から呼び寄せた最高位の聖魔道士、医療魔道士に混じり、ルナの痛みや苦しみを和らげる聖魔道と医療魔導の混合魔導を施している。

そんな面々が揃う中でも、ルナが回復するまで相当な労力と時間を要した。

それほどまでに、恐ろしい負担と複雑で厄介な術式がルナに掛かっていたのだ。

そんな最高の面々が揃っているというのに、ルナの全身の痛みや苦しみは僅かしか和らげる事しかできなかった。既に夜は明け次の夜が来るまで掛かってもだ。

みんな、フウライまでもが魔力を使い果たしグッタリとしてる。だが、父親であるフウライは魔力切れでも、苦しむ息子をなんとかしてやりたいと汗だくでフラフラになりながらも懸命に力を込める。そんな必死のフウライと苦しむ息子の手を握り祈るハナ。

残念ながらロゼは、回復系の魔道は微々たるものしか使えないらしくこれに関しては戦力外であった。サクラも自分自身を回復する事はできても他人を回復させる波動はできない。

ショウは、ルナの痛々しい姿に心を痛めサクラとロゼに抱きしめ慰められながら、この部屋にいた。

…そう、この部屋にだ。

ハナ達が来る事を知り、サクラはショウを連れて部屋を出て行こうとした時だった。

何故か、この部屋から出るなとリュウキから言われたのだ。サクラやロゼが、それに抗議しているうちにハナ達は、フウライのワープによって来てしまった。苦しみもがくルナを抱いて。

その姿を見て、ショウは全身の血が引けるほどに心苦しい気持ちになっていた。

そんなショウを見て、サクラとロゼはルナの痛々しい姿が見えないようにショウを抱きしめ隠し、ロゼのワープでこの部屋から出ようとした。

しかし、リュウキはワープしようとするロゼを横目で見て


「言ったはずだ。この部屋から出るな。
そして、お前達という目隠しを取り、ショウにこの現実を見せろ。」

と、言ったのだ。もちろん、サクラとロゼは猛反発し抗議した。しかし、一瞬だがルナの痛々しい姿を見ていたショウは「…大丈夫だよ。ありがと。」と、言い、ルナ達の様子を見ていた。

その間、サクラはショウを抱きしめ「いくら、ショウ様の父上とはいえ、なんでも言う事を聞かなくていいんですよ?この部屋から出ましょう。」と、ショウを説得しつつ、時折怒りの籠もった目でリュウキを睨みつけていた。
ロゼも、ずっとショウの側に寄り添いショウを慰め続けている。


何の意図があり、ショウをこの部屋から出さないのかリュウキの考えている事が分からない。

ずっとずっと、苦しみもがき続けるルナ。そして、そんなルナを助けようと奮闘する魔道士達。ルナを心配し、助けてくださいと祈る続ける両親。

その姿を見ているうちに、ショウは心の中で“誰か…誰か、助けてあげて!!誰かっ!!!?”と、涙をボロボロ流しながら、心の底から強く強く祈った。


その時だった。


ショウの前に、音もなくダリアが現れた。

それには、ショウも周りにいる誰もが驚いた。…ただ、一人を除いては…

…はわわわと、いきなりのダリア出現にショウが戸惑っていると


「ソイツは、お前が呼んだんだ、ショウ。」

と、リュウキは言った。何の事か分からず、こんらがっているショウに

「ショウ、お前はルナが苦しんでる姿を見て思ったはずだ。“誰か、助けてあげて”と。
だから、お前の願いを叶える為にソイツは現れた。ソイツ…ダリアにお願いしてみなさい。
お前が、今一番望んでいる事を。」

そう、リュウキは言った。困惑するショウだが、ルナの痛々しい呻き声でハッとする。

よく分からないけど、ダリアという少年にお願いすると大丈夫な気がした。…何故か、分からないけど。


「…あ、あの…ダリア君?」

ショウは、オズオズと目の前にいるダリアに話しかける。だが、ダリアは目を瞑ったまま何の反応も示さない。

「…お願い、あの子達を助けてあげて?」

祈る気持ちで、ダリアにお願いしてみた。

すると、ダリアはショウに背を向けルナに向かい手を伸ばすと、一瞬部屋一面が紫の光に覆われた。

それは一瞬の事だった。みんなが目を開いた時にはルナは完治し、医療魔道士や聖魔道士達の魔力も全回復していた。そして、ダリアの姿は消えていた。


それを見ていたリュウキは


「…やはりな。」

と、一人納得していた。


みんな、一体何が起きたのかとポカーンとしている。その中、ハナとフウライは息子であるルナを抱きしめ泣きながら喜んでいる。

サクラとロゼは、何故か悔しそうな表情をしていて不機嫌そうだ。

ショウも何が何だか分からないけど、とりあえずダリアがルナ達を助けてくれたんだと思い

「ダリア、ありがと。」

と、誰にも聞こえないような小さな声でお礼を言った。すると、どうしてだろう?

ショウの胸のあたりがポカポカして“俺様を必要とするなら、いつでも俺様を呼べ”そう、言われた気がした。

そして、その日は一旦解散し


次の日に、リュウキは魔道士達を国へ帰した後、みんなに部屋に集まるよう声を掛けた。


もちろん、異世界からきた鬼の話をする為である。

「…つまり、またルナの体を使いこの世界に来るという事ですね。それには、ルナへ掛かる負担が大きく今度はルナがどうなってしまうか分からないと。」

と、フウライは深刻な顔をしてリュウキと話していた。

「ああ。それに、ルナ自身がハナとフウライの子供で未来から来た事以外、記憶が無い事も気になる。それに関して、ロゼは何か思う事はあるか?」

ショウの事、自分の存在の事で頭がいっぱいいっぱいだったロゼに、リュウキが話をふったもんだからロゼはビックリして

「お主様の話と、ソチ達の話を合わせて考えるに…我は、ルナは自然にできた子供でも人工授精でできた子供でも無く、ハナとフウライの細胞を無理矢理に掛け合わせ作られた合成人間のような…」

と、うっかり喋ってしまってる最中だった。

「…ろ…、やめろ…」

小さく、呟く声がしたが構わず


何でこんな面倒くさい事を説明せにゃぁならんのじゃ

自分に関係ないと思うて油断して、うっかり喋ってしもうた


なんて、ロゼはウンザリしながらも話を続けた。


「よって、ハナの頑丈で強い肉体とフウライの天才的魔道士の掛け合わせは、あの鬼が入る器として最適だったんじゃろう。

そして、何より子供を欲しがる二人に子供が居るとなれば、この世界に入り込みやすく都合のいい…「もう、喋るなって言ってんだっっ!!!」

珍しくフウライが声を荒げ、ロゼの説明を遮ったところで

「…やはり、お前も分かっていたんだな。分かっていて、俺にそんな大事な事も報告もせず過ごしていたと?」

リュウキは腕組みをしながら、冷たくフウライを見下ろした。その目の奥には怒りが見える。


「…え?いや、何がどうなってんだ!?」

と、いまいち状況を把握できていないハナ。
だが、ハナとフウライの細胞から人工的か、何かの禁術で作られた子供だという事だけは、何とな〜くだが理解できた部分もある。


「…って、事は俺は…父ちゃんと母ちゃんの子供じゃないって事か?」

自分の生い立ちを知りショックを受け立ち尽くすルナに、ハナはハッとし

「何バカな事言ってんだい!?
生まれ方が、人とちょっと違うからって悲観的になるんじゃないよ!
あんたは、誰がなんと言おうとれっきとした私達の子供だよ。」


すぐさま、力強くルナをギュッと抱きしめた。


「…その馬鹿な頭は誰に似たんだか。言っておくけど、理由はなんであれルナは、俺とハナの遺伝子から生まれた子供だ。
そして、何よりお前は俺とハナが望んでできたんだ。それ以上、親子の理由はいらないだろ。」

と、フウライは、ハナとルナを抱きしめた。


「…父ちゃん…母ちゃんっ…!…俺…おれぇ〜っ!!!」

フウライは、自分の家族を守るように抱きしめながらリュウキを向いた。


「…確かに、ルナの時間がおかしい事に気づいてはいました。ですが、どこをどう調べてもルナは俺とハナの子供に間違いはありませんでした。…何かあると考えた事も、確かにありましたが…それ以上に嬉しかった。

子供ができない体のハナに、奇跡的にも俺との子供ができた。ハナの喜びに満ちた幸せそうな顔を見たら、それ以上ルナの生い立ちを追求する事を放棄して、周りに内緒で俺達は家族として今まで暮らしてきました。そして、これからも家族である事には変わりありません。」

その顔は、リュウキの部下でもなく家族を守ろうとする父親の顔だった。


「…フウライ…」

「…父ちゃん…!」

フウライを心配する妻と子供。

しばらくの間、リュウキとフウライの睨み合いが続き

リュウキは、ハァと小さく溜め息をつくと


「王としては、こんな重要な報告をしなかったお前に失望という怒りしか湧かないが、同じ父親としては…俺がお前の立場であったなら俺も似たような事をしてただろうな。
だが、報告しないのは許される事ではない。
よって、ハナもフウライも罰として、商工王国騎士団長、副団長の辞表は取り下げる。」


と、言ってきた。だが


「これは、俺個人の問題!ハナには関係ありません!それが罰というなら、俺は喜んで引き受けます。」

フウライは、焦ったようにリュウキに反論したが

「いや、違うな。部下の不始末は上司の責任だ。異論は認めん!」

と、リュウキはフウライの願いを取り下げた。
悔しそうに下唇をかみ俯くフウライに


「だが、その事によって俺達はルナを救う手助けもできる。それに、お前達の地位があれば機密事項も知り自由に動けるはずだ。民間人では自由が効かない事が多い。それに、場合によっては法で裁かれてしまうぞ。元の役職に戻る事は今のお前達にとっていい話だと思うが?」

そう言ってきたリュウキに、ハナは


「いい話じゃないか!これで、ルナを助ける事ができるんだぞ?私達、親が子を守らないでどうするんだい?」

と、説得し

「俺もお前達も、自分の子供を守る為に組むんだ。利害一致じゃないか?」


リュウキのこの言葉も加わりフウライも、ようやく観念したようだった。


そして、話し合いが始まった。


「…つまり、異世界から来たという鬼は、この世界で最強であろうダリアよりも格上だと?」

フウライが、驚きを隠せずいる中でさらに

「別格だな。あのダリアが手も足も出なかった。そして、鬼が治める異世界はだいぶ歴史もあり、我々がいるこの世界とは規模さえも違うようだ。
鬼から見た、我々のこの世界はあまりに小規模。更に、生まれたての赤子のようなものだろう。」

リュウキが、絶望的な話をしてきた。

「…うむ。我が思うに、あの鬼は自分の世界から出る事ができぬ“宇宙の核の一つ”なのじゃろうと思う。」

珍しく、リュウキ達に混じり自分の考えを述べるロゼ。だって、ショウに関わる事だから。

「…“宇宙の核?”」

と、疑問を投げかけるフウライ。

「宇宙の核とは、そのまんまの意味じゃ。
つまり、核が自分の世界から出るとその核の司る何かが崩れその宇宙は滅んでしまう。
じゃから、核である以上自分の世界から出られんのじゃ。」

そこで、フウライはハッとした。


「…そうか。だから、自分を世界に留めたまま、自分の意識を入れる“器”が必要だった。
それも、強大な自分の力に耐え得る器が…」

「そういう事だろう。その為に、俺達のこの世界で自分が入れる道具を作った。それには、様々な条件があったはずだ。相性やら、能力、鬼が入っても壊れない強靭な体など他にも色々あるはず。そこで、幸か不幸か…鬼の計算の中でハナとフウライの掛け合わせが、より自分に合った器だと考えたんだろう。」


そう話すリュウキの言葉を、ハナとフウライ…ルナは複雑な気持ちで聞いていた。


「鬼の話を聞くに、鬼のいる異世界では鬼の他にも核たる人物が数名いるという事を仄めかしておったの。つまり、ダリアよりも別格の強さと知識など持った者が、その世界には何人かいるという事。鬼のいる異世界はそれほどまでに強大で偉大な宇宙なのじゃろう。」


「…で?痴情のもつれで嫁は逃げだし、嫁はショウの為にこの世界を創った?
何が何だか、よく分からない話だな。」

と、シープは首を傾げていた。ハナは、全然頭が追いついていない。

すると、自分の膝枕でショウを寝かしつけたサクラが、自分の頭の上にダル〜ンと乗っているロゼにイライラしながらようやく口を開いた。


「だとすれば、あのクソ鬼の嫁も核の一人って事だろ?なら、嫁だって鬼のいる異世界から出られないと思うぜ?」

ショウが眠っている事をいい事に、サクラの本性丸出しの態度で話に加わる。いつもなら、誰の話にも興味ないし鬱陶しいだけだが、今回はショウが大きく関わってきている。
ならば、話は別だ。何が何でも、どんな手を使おうが…人の力が必要ならばサクラのバカ高いプライドをへし折ってでも頭を下げる。

リュウキ以外、サクラの態度に驚いている。

無理もない。

ショウの前では、レディーファーストな完璧な紳士かつ主人に従順な従者であるが、ショウがいなければ見ていなければ

プライドばかり高い、とんだ横暴な俺様になる。

先程までの気品溢れる、まるで物語にでも出てくる様な王子様の様なサクラはどこにもいない。

…コイツ、ショウの前では猫かぶってやがる。

と、リュウキとロゼ、オブシディアン以外がサクラに対しての印象がガラリと変わった瞬間だった。

いや、前にハナとフウライ、シープは、サクラの態度がショウと自分達とでは全然違うとは思っていたが、あの時は自分達と関わりを持ちたくないが為にさっさと事を終わらせようとサクラにとっては大人しくしていた方だったのだろう。

それが、ショウやサクラ達に関わる一大事で、どうしても他人と関わらなければならない今、サクラの素の姿を見てしまう羽目になってしまった。

…正直、素のサクラの態度はムカつくのでショウに起きていてほしかった。と、頭を抱える面々である。


「そうなれば、本体は自分の世界に置いて、鬼の様に器を作りこの世界に出入りしているという可能性があるという事か?」

シープが、あり得る話じゃないかと自分の考えを述べた。

「確かに、鬼と同類種、そして、同じような能力を持っているなら可能性はあるね。
だけど、聞く限りその異世界は膨大な宇宙で歴史も古いようだ。そして、何人もの力を持った存在が力を合わせその世界を創ったとしたら、鬼の嫁が鬼と同じ能力を持った者とは考えづらい気がする。」

オブシディアンが、自分の気がかりな点について思案すると


「…うむ。実際に鬼と直面し、鬼からは一切の魔力を感じなかった。じゃが、微弱ではあるが魔力とはまるで違う別の“何か”を感じた。
本来ならば、あの鬼は一切の力をも隠す事ができるのであろうが、他人の体に入り、そして、何より鬼にとって、我らのおるこの世界は鬼にとって居心地の悪い世界なのじゃろう。」

「つまり、鬼はこの世界に来ても本来の力を発揮できない。不利な世界だと言う事か。」

「うむ。つまりは、鬼のいる異世界は、様々な能力や力があり、様々な種族が存在しているという事やもしれん。
じゃから、鬼のいる異世界の核はその種族や自然の能力や力に準ずる者達。
じゃから、核が何人か存在しておると我は考える。」

「…ああ、それなら納得だ。
この世界は、魔力が主体となっている。鬼の嫁が一人でこの世界を創ったというなら、そういう事なんだろう。」

サクラとロゼは、阿吽の呼吸とでもいおうか。まるで息の合った兄弟のごとくポンポンと自分達の考えが飛び出している。

しかし、二人のこの考えは有り得そうな話だ。みんなで色々な意見や見解を出し合い、その中で納得のいく話であった。

と、そこに


「…あ〜、難しい話でイマイチついてけないんだけどな。」

みんなの難しい話についていけずずっと、ポカーンとしていたハナ。難しい話で頭が追いつかなくなると、いつもハナは居眠りしている所だが今回ばかりは違う。大切な息子のピンチなのだ。訳が分からなくても居眠りなんてしてられない。

いつもの調子と違うハナに、リュウキとフウライは驚くも大切そうにルナに寄り添う姿を見て…そうだよなと納得し、ハナの話に耳を傾けた。

すると、ハナの口から思いもよらない言葉が出てきたのだ。


「お前達、さっきからショウ姫と天守、鬼、鬼の嫁の話ばかりしてるけどさ。
私は、それよりもリュウキの嫁が気になるね。」

そう…そんな、トンチンカンな事を。

リュウキやフウライは、頑張ってるんだなぁって生温かい目でハナを見ている。会議や話し合いでこんなにも頑張ってるハナの姿なんて今まで見た事がなかったから。

もう、斜め上だろうが話がズレようが、ハナの頑張ろうって気持ちだけは伝わり感動すら覚えていた。…母とは偉大なんだなと。

だが、そこにロゼはハッとした表情をし


「…それじゃ!」

と、何か閃いた声をあげた。
そこに、サクラも

「…なるほど!」

と、ロゼと以心伝心でもしてるかのように、すぐにハッとした表情をした。

そんな二人に、リュウキとフウライ達は何事かと関心を寄せ興味深く二人の話を聞く。


「これは、どうしてもお主様や我ら天守に目が行きがちじゃが、そこが大きな盲点だったのかもしれん。」

と、言うロゼ。


「まあ、そこら辺よく分かんないけどさ。
話に関係ないかもしれないけど、天守だのなんだのって話が出る度に私はずっと疑問に思ってた事があるんだよ。」

そこで、ハナはこう言った。


「リュウキ、お前の嫁は毎回、ショウを産んで消えてないか?」

と、言った事でリュウキは

「確かに、ハナの言う通りショウが生まれるとアクアは毎回力尽きてしまう。
だが、それはショウという“天”を産む役目だからだ。」

この世界はそういう摂理になっている。と、仕方ない事だと諦めきったような事を言ってきた。

それに、ハナだけが首を傾げ


「…役目だと?リュウキ、お前は嫁をショウを誕生させる為だけの道具だって言いたいのか?」

納得がいかないとばかりにリュウキに意見した。それに対し


「そんな訳あるかっ!!?」

と、珍しく感情を露にし声を荒げた。そして、ハッと我にかえると

「…ハア、すまない。
だが、これだけは言わせてもらおう。昔も今も、これからも俺が心から愛し妻とするのはアクア以外考えられない。
そんなアクアを道具だなんて考えた事もない。

…正直、ショウが生まれなければ…そう思った事もあった。しかしだ。

ショウは、俺とアクアの確かな繋がりなんだ。二人だけのこれ以上ない愛おしい宝。
そんな大切な存在を消そうとは、どうしても思えなかった。何より、アクアの気持ちを尊重したかった。」

と、今まで抱えてきた自分の葛藤を打ち明けた。

すると


「それだよ、リュウキ。」

ハナは、真剣な顔をしてジッとリュウキを見てきた。リュウキをはじめ、何だとみんなハナに注目する。


「…いや、難しい事は分からないし、お前達からしたらおかしな事を言ってるのかもしれないけどね。私は思うんだ。
この世界は、そもそもショウの為に創られたんじゃない。鬼の嫁って奴の欲ってのか?観賞用?なんてんだろうね。
…まあ、言葉にするのは難しいから、この話は置いといてだ。」

ハナの中で、色々思う所があるがあまりの語彙力の無さに自分の伝えたい事が伝えられず、別の話に切り替えたようだ。


「鬼の嫁はショウ姫じゃなくてさ。リュウキ、お前の嫁の事が好きなんじゃないのか?」

なんて、突拍子もない事を言ってきた。

みんな、…………???と、何言い出すんだかと思っていたが


「…ある話かもしれない。」

と、フウライが深く考え込んだ様子でハナを擁護してきた。

「ハナが、これだけ自分の意見を言う時は、俺の経験上…あながち間違えてない。むしろ、信じていい。それ程までに、ハナの野生の勘は恐ろしいくらい当たる。」

それを聞き、リュウキも何やら思う所があるらしく、難しい顔をして考え込んでいる。


「…いやいや、ちょっとそれは無理があるのではないか?だって、もし王の妻に好意を持っているなら、何故、王と結婚させ子供まで作る事を許せるんだ?
自分の好きな相手が、他の誰かと結ばれるのを黙って見てられるか?ましてや、鬼の嫁と運命の赤い糸で結ばれている事が分かってるなら尚更だ。」

シープが、そう言うと確かにそうだと、みんなうなづく。


「…う〜ん…。確かに、そうなんだろうけどさ…。それは、あくまで鬼の嫁目線であって、リュウキの嫁目線じゃないだろ?
リュウキの嫁の気持ちがどうだったのか考えたか?少なくとも、リュウキの嫁はリュウキが良くて結婚したんだ。」

と、あくまでハナは、鬼の嫁とリュウキの嫁が関係あるのではないかという姿勢を崩さなかった。

そこで、リュウキは不快な気持ちに苛まれていた。


頭に血が上り過ぎて忘れていた

…そうだった。ハナの直感や勘は、今までほとんど外れた事がない。ハナのそれで、様々な危機を救われてきたんだったな

なら、ハナの話から考えれば


…アクア…お前は、一体…?

俺は、お前を信じていいのか?

アクア、お前の本当の気持ちが知りたい

俺は、どうしたらいい?


と、リュウキの心は迷宮に入り込んでしまった。

そんなリュウキの気持ちを察し、空気がどんよりと沈む。

その時だった。


『リュウキったら、私の事信じられないの?』

と、アクアの声が聞こえてきたのだ。

驚き、俯いた顔を上げ周りを見渡すがアクアの姿は無く、幻聴かとついに自分はおかしくなってしまったかと自虐するリュウキだったが


『私はーーーとは、絶対に結ばれないの。
そもそも彼は、恋愛対象は美人しか受け入れられない重度の潔癖って事も大きな理由だけど。
一番の理由は…リュウキ、私、あなたの事が好き。それが、一番の理由よ。』

「…あ、アクアッ!!?」

思わず、リュウキは立ち上がりアクアの姿を探した。


『…あ、でも…もう、限界かも。ーーーが、許してくれない。』

「…許してくれないだと?それは、どう言う事だ!?アクアッ!!!」

『…時間がないから、これだけ言わせてね。
私を信じて。私はリュウキ、あなただけよ。』


その言葉を残して、アクアの声は聞こえなくなってしまった。いくらリュウキがアクアの名を呼んでも、もう、何の返答もなかった。