オオカミさんはウサギちゃんを愛でたい。


 濡れた髪であたしを見下ろす大地くんが、片方の口角をあげてイジワルに笑う。

「ほんとにあたしが逃げ出すと思ってた?」
「さあ」
「逃げた場合。引き止めてはくれないの?」
「ちょっとくらいは追いかけるかもな」
「そこは全力で追いかけてよ」
「美香に俺はふさわしくない」
「それ、どうでもいい相手を遠回しに拒絶するときの常套句なんだけど」
「そうじゃない」
「じゃあそんなこと言わないで」
「見てきたんだ」
「見てきた?」
「すれ違ってくヤツらを」

 ――――!

「そいつら、口を揃えてこう言う。"寂しさに耐えられなくて別れたいと告げられた"」

 あたしたちが、そうなるって言いたいの?

「ただでさえ寂しがり屋なお前に、辛い想いをさせたくない。笑ってて欲しいんだ」

 …………バカ。

「それって、あたしのこと、めちゃくちゃ大好きってことじゃん」