大地くんに手を引かれ、店の奥へと進んでいく。
 状況が理解できない。

 ここ、どこ。さっきの女性は誰なの。 
 階段を上った先には部屋があった。

「ここは。……お店じゃないの?」
「俺の家」

 ――――!

「って言っても、高校まで住んでたところで滅多に帰って来ない。防衛大学校に進学してからは寮暮らし」

 ――"ボウエイダイガクコウ"

「幹部自衛官を育てる、学校」
「よくできました」
「さっきのは大地くんのお姉さん?」
「親代わり」

 …………?

「親って。そんなに大地くんと年、離れてないように見えたよ」
「いや。ああ見えて、いい年――なんていうと怒られるな」

 大地くんの瞳が揺れる。

「身寄りのない俺を。海月(みつき)の両親が引き取って育ててくれた」

 部屋に、写真が飾ってある。
 幼き日の大地くんと海月さんだろう。あんなに小さな頃から二人は一緒なんだ。

「中学を卒業したら、俺、就職するつもりだったんだ。そしたら海月から猛反対されてさ。担任も進学をすすめてきた。特待生制度のある高校、検討してみろだとか。パンフレット渡してきて」

 それだけ勤勉で優秀な学生だったのかな。特待生ってきっと怠けてちゃ、なれない。

「だけど俺は。学びたいなんていえなかった。いいや。俺には学びたいことなんて、なかったんだ」