大地くんは、電車に空席があっても、けっして自分は座らない。
 習慣みたいなものらしい。
 あたしには座れと言って、膝に上着をかけてくれた。

「それじゃ大地くんが寒くない?」
「俺は暑がりなんだ」

 それにしても寒さに強いよね。
 そりゃあ丈夫なカラダと体力がなければ、できない仕事だろうけど。
 何日も眠らずに重い荷物を背負って山道を歩く訓練を受けるって、ほんとかな。
 
「台風が。くるの?」
「あ?」
「ベッド綺麗にセッティングできなきゃ。台風がきたって、ぐちゃぐちゃにされるとか」
「よく知ってるな」

 調べたの。大地くんのこと知りたくて。

「ねえ。どこに行くの?」
「着いてからのお楽しみ――って言ってもテーマパークのパレードでも夜景の見えるバーでもねえよ」
「あたしがバーは無理でしょ」
「常識的に考えたらな」
「行ったことあるけどさ」
「不良娘め」
「お酒はね。あんまり、得意じゃない」
「好きって言われても返答に困るがな」
「飲んだらみんな人が変わっちゃうでしょ」

 酔いが覚めて後悔したことしかない。

「教えてやるよ」
「……なにを?」
「酒の飲み方」
「ほんとに?」
「大人んなったらな」

 あたしが大人になった頃に、大地くんはあたしの隣にいてくれるのかな。