「そもそもに、あの男の家で働く意味がわからない。金なら困ってないはずですよ。働くにしても、もっと好条件の場所が――」
「あそこがいいの。お金じゃないの」
大地くんが生まれ育った街で、うちで、同じように過ごせるのが嬉しいんだよ。
どれだけ待遇のいい仕事先を見つけても、これほどに価値のある場所なんてない。
「あの男のなにがいいんですか。顔ですか」
「ぜんぶ」
「は?」
「ぜんぶとしか。言えない」
いいなって思うところも、もう少しなんとかして欲しいところも、みんな好き。
「ひっくるめて大好きなの」
「納得できません」
「なにが?」
「絶対――……」
なにか言いかけて言葉を呑み込む、モトナリ。
「なに?」
「とにかく。あの男にそれほどの魅力を感じません」
結婚相手をモトナリに選んでもらうつもり、微塵もないんだけど。
「モトナリは人を好きになったこと。ある?」
「……え」
雪みたいなモトナリの頬が、みるみる赤く染まっていく。
「あるの?」
意外な反応されてしまった。
まあモトナリも思春期だもんね。気になる子くらい、いるか。
男子校だからラブはないって感じのこと海月さんに言ってたのに。
「どんな子? かわいい?」
「どんな子でも。いいじゃないですか」
「だったらわかるよね。好きな人と離れたくない気持ち」


