髪と制服を濡らすわたしを不憫に思ったのか伊藤先生が家まで車で送ってくれることになった。

「先生の赤ちゃん、天国に行っちゃったの」

道中、先生は静かな口調でそう言った。

「元々ね、少し前に赤ちゃんの成長がみられないってお医者さんに言われていて……。あのことがなかったとしても、赤ちゃんを無事に育ててあげられたのかも今となっては分からないんだけど」

沸き上がってくるのは申し訳ない気持ちだった。

「先生……あの時はごめんなさい。わたし……先生に酷いことを言った……」

「いいのよ。気にしていないから。それに、どうせ源田さんにそう言うように指示されていたんでしょう?」

「知ってたんですか……?」

「えぇ。もちろん。あのとき、消しゴムを投げたのはあなただって源田さんが言ってたけど、ちゃんと林さんの机の上には消しゴムがあったもの。それに、あなたはそんなことしないって分かってたから」

「先生……」

「林さん、私の方こそあなたに謝らないといけないわね。あなたと源田さんの二人を生徒指導室に呼び出したのは間違いだった。私が不甲斐ないばかりにあなたを追い詰めることになってしまったのかもしれないわね」

「そんなこと……」

「でもね、どうしても許せなかったのよ。あなたの頑張りを一瞬で奪っていく源田さんの行為が。結局、楽した分源田さんに後でつけは回ってくるわ。でも、林さんの気持ちを思うと……黙っていられなかった」

ハンドルを握って真っ直ぐ前を見据えたままそう言った先生の横顔を見つめていると胸の奥が温かくなった。