「じゃあ、この問題分かる人いますか?」

伊藤先生が教室中に視線を走らせる。

昨日予習した部分だったため答えはすぐにわかった。

でも、今はそれどころではない。

わたしの頭の中はカスミちゃんのことで一杯だった。

「誰か、いませんか?」

クラスメイト達は誰も手を挙げない。

それは、数日前にカスミちゃんがある指示を出したからだ。

まだ20代後半の若い伊藤先生は去年この学校へ赴任してきた。

見た目は大人しそうなのに反して白黒はっきりさせたい正義感の強いタイプの先生だった。

悪いことはハッキリ悪いというし、ダメなところはダメと指摘する。

その分褒めてくれることも多いしきめ細やかな指導をする先生だった。

そんな伊藤先生のことを以前からカスミちゃんは目の敵にしていた。

だから昨日、嫌っている伊藤先生に呼び出されたことにカスミちゃんは相当腹を立てたに違いない。

黙って下を向いていると、ポケットの中のスマホが震えた。