「あっ、先生?わたしです。林愛奈です」

『もしもし?林さん?さっきは突然家に電話をかけてしまってごめんなさいね。今大丈夫?』

「はい!大丈夫です!」

『なんだか声が明るいわね。何かいいことでもあったの?』

「やっぱり、わかります?いいことがあったなんてもんじゃないんですよ。先生、聞いて下さい。わたしね、もう誰にもイジメられないんです!」

佐知子や志穂ちゃん、それにカスミちゃん。あたしをイジメる人間はもうこの世に誰もいない。

わたしは今までに起こった出来事を先生に話した。

『ど、どうしてそんなことを……?今の話、悪い冗談よね?』

先生の声が震えている。あたしはそれに気付かぬふりをして続けた。

「まさか!冗談なわけないじゃないですか!正直、わたしもここまでうまくいくなんて思ってなかったんですけどね。先生、わたしのことを心配して電話をかけてくれたんですよね?でも、もうその心配はいりません。もしまたイジメられるようなことがあってもイジメ返しするから安心です。それに、エマちゃんがいればわたしは何も怖くない」

『どうしてそんなことを……。どうして……。そんなことをしてもあなたは幸せにはなれないのよ。それなのに――』

「えっ、先生……喜んでくれないんですか?」

『喜べないわ。そんなことをしてはいけないの。このままでは不幸の連鎖が続いてしまう。……今からでも遅くないわ。過ちに気付いた時、それを正すの。道を踏み外したと気付いた瞬間、元の道へ戻る努力をすればいいのよ。まだ間に合う。だから――』

「なんか、先生のことをカスミちゃんがウザいって言ってた理由がわかっちゃった気がする」

『え……?』

「先生のそのお説教臭い言い方、すごい鼻につくんですよね。わたし、道を踏み外したなんて思ってませんから」

『林さん……』

「ていうか、そもそもわたしへのイジメがひどくなった原因って伊藤先生ですよね?カスミちゃんとわたしを二人で呼び出して説教なんてしたら、どうなるか普通分かりません?あっ、そっか。生徒の気持ちとか分からないからみんなに嫌われてたんですよね。先生を慕ってた過去の自分に「やめな」って忠告したいぐらいです」

まくしたてるように早口で言うわたしの言葉を先生は黙って聞いていた。