「え?」

「娘に暴力を振るわれました」

「えっ、娘さんに……?」

「ずっと……暴力を……」

救急隊員が眉間にしわを寄せてあたしをいぶかしげに見つめる。

でも、すぐに母の方に向き直った。

「話はあとでゆっくり伺います。まずは病院に行きましょう」

「はい……」

そう答えた母にあたしはあっけにとられた。

「な、何言ってんのよ。何言ってんの……?あたしがそんなことするはずないじゃん!頭打って頭おかしくなっちゃった?ねぇ、ってば!お母さん!」

そう叫ぶと、母は悲しそうにこう言った。

「佐知子が悪いことをしたら、悪いって言えるのはお母さんしかいないから……。今まで甘やかしすぎたの。お母さんが間違ってた」

ボロボロと涙を流す母を呆然と見つめる。

そんな……。あたし、これからどうなっちゃうの?

お父さんが痴漢で逮捕されて、母への暴力を病院から警察に通報されたらあたしは児童相談所に通告されるの?

「自業自得ね」

「そ、そんな……」

「まぁせいぜい頑張ってね」

絶望の淵に立たされたあたしの耳元に唇を寄せてそっと小声で囁くと、エマちゃんはあたしの目をまっすぐ見つめて天使のように綺麗な顔で微笑んだ。