イジメ返し―新たな復讐―

顔面は蒼白でこめかみ付近から溢れ出た血が床にじわりと広がる。

それだけではない。よく見れば後頭部からも出血している。サラサラしているものではなく、ドロドロとケチャップを垂らしたような真っ赤な鮮血にあたしは呆然とした。

「お、お母さん。お母さん……!?」

体を揺らしても母の反応はない。

「嘘。嘘でしょ……いや、嫌……いやぁぁあーーー!!!」

スマホを手に取り救急車を呼ぶために画面をタップする。

そのとき、画面に表示されたのは愛奈からのメッセージだった。

【愛奈:動画見た?どう?今の気分は。まさに因果応報だね】

【愛奈:イジメ返しされて悔しかった?残念だったね、今度は佐知子の番だよ】

「ハァハァハァ……。なによ、アイツ。何なのよ!!」

感情が高ぶり、あたしはスマホを床に叩きつけた。

画面が割れ、ボロボロになったスマホをかかとで何度も踏んづける。

「死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね」

念仏のようにそう繰り返す。足元には割れたスマホと意識のない母が倒れている。

あまりにも非日常のことに頭が混乱して何をすべきなのか分からない。

ただ、体の内側からどうしようもない感情が溢れあたしは叫んだ。

「ど、どうしよう。きゅ、救急車――!!」

ハッと我に返ったものの、足元のスマホは粉々だ。

あたしは慌てて部屋を飛び出して、母のスマホを探した。

でも、母のスマホはどこにもない。

固定電話も去年、勧誘の電話しかかかってこないことを理由に撤去してしまっていた。

「なんで!?」

パニックだった。物事を正しく考えることができない。

とにかく一刻も早く救急車を呼ばなくてはいけないと思えば思うほど、次の行動がとれない。

「そ、そうだ。隣の家のおばさんに助けを呼んでもらわなくちゃ――」

隣の家まで少し距離はあるものの、走ればすぐにつく。

あたしは玄関の靴を履くことすら忘れ、そのまま家を飛び出した。