ベッドの上にリュックを放り投げて部屋の姿見に自分の姿を映す。

鏡の中にいたのは髪を一つにまとめた小さくて太ったマスクをつけた太っていること以外なんの特徴もない地味な女だった。

それでよかった。何の特徴も持ちたくはなかったから。

右手の人差し指と親指で耳にかかったマスクの紐を外す。

「酷い顔……」

長い顎と上を向いた大きな鼻。幼い頃からのコンプレックスだ。

『佐知子ちゃんってブスだよね』

小学校の時、何気なく放たれた友人のその一言はあたしの人生の根底をも覆すほどの衝撃を与えた。

確かに特別美人ではないけれど、特別ブスではないと思っていた。

両親からは愛情深く育てられたし、『佐知子は可愛いね』と両親はいつも呪文のようにそう繰り返していたから。

家に帰りその話をすると、『そ、そんなことないわ。佐知子は可愛いわよ』と母はわずかに目を泳がせた。

その瞬間、あたしは気付いてしまった。

母は自分の娘がブスではないとそう思いたくなかったから一心不乱に『可愛い』と口にすることで自分に言い聞かせていたのではないのか。

あたしは母のそんな言葉に乗せられて、自分の容姿を客観的にみることができていなかったのかもしれない。