「ただいま」

家に帰ると、母が「おかえり」と笑顔で迎え入れてくれた。

「佐知子、どうしたの?何かあった?」

「別に。ねぇ、マスク、買っておいてくれた?」

あたしがそう尋ねると、母はハッとしたような表情を浮かべた後申し訳なさそうに言った。

「あっ!そうだったね。ごめんね。忘れてた。週末でもいい?」

「……は?どうして忘れたの!?マスクがなかったらあたし学校へ行けないっていつもいってるじゃない!!」

「ねぇ、佐知子。お母さんは佐知子の顔、隠す必要なんてないと思うわよ?」

「うるさい!!」

あたしはテーブルの上のマグカップを掴み上げて床に叩きつけた。

母が仲の良い友人にもらって大切にしていたと知っていたいたからこそ、このマグカップを選んで壊した。

「ああっ……」

母が泣きだしそうな表情を浮かべて割れたマグカップの破片を床に這いつくばって集め始めた。

その背中をあたしは足の裏で踏みつけた。

「今すぐ町まで買いに行って!!わかった!?」

「さ、佐知子――!!」

何度か母の背中を踏みつけて怒りを発散させると、あたしは階段を駆け上がって2階の自室へ飛び込んだ。