―石原佐知子side―

「ハァ……。もう嫌だ……」

ずっと胃の奥がムカムカと痛む。何をしていても常に頭の中をグルグルと回るのはさっきかかってきたカスミちゃんの電話の言葉だ。

『佐知子~?今日の賭け、アンタの負け~!アイツ便器舐めたから。明日1万持ってきてよね』

唐突に電話口のカスミちゃんはそう言い放って電話を切った。

確かに放課後、カスミちゃんはあたしの席にやってくるなりこう言った。

『今日、愛奈んちに行ってアイツ捕まえるから。公園連れてってリンチしようと思ってんの。でさ、アイツに便器舐めさせようと思ってんだけどどう思う?アンタは舐めると思う?』

まくしたてるような口調のカスミちゃんにあたしは顔を引きつらせてこう答えた。

『便器でしょ……?いくらなんでも舐めないと思うよ……?』

『あっそ。じゃあ、佐知子は舐めないの方に賭けるってことね』

『え?』

『賭けに負けた方は1万払うってことで。じゃね~!』

カスミちゃんは早口でそう言いあたしに返事をする隙を与えずに教室から出て行ってしまった。

賭けをするともしないとも言っていないのに、勝手に決めてしまったカスミちゃん。

しかも、負けた方が1万なんて額が大きすぎる。

それに。そもそもこの賭けは絶対的にカスミちゃんに有利になっている。

というかカスミちゃんが勝つ以外はありえない。

だって、あたしは愛奈が便器を舐めたかどうかなんて確認のしようがないんだし、証拠もない。

カスミちゃんの口車に乗せられてしまった自分を恨めしく思うと同時に、カスミちゃんという人間への恐怖心が更に募った。