でも、わたし以外の子がターゲットにされている間だけは、わたしはカスミちゃんの奴隷から解放された。

カスミちゃんの気分はコロコロ変わる。

機嫌がいい時は『愛奈、おはよ~』と挨拶をしてくることもあるし、機嫌が悪い時は『おい』とか『お前』とか『アンタ』とか名前すら呼んでくれない。

毎朝、カスミちゃんがどんな様子で登校してくるか、それによってその日のわたしの一日は大きく左右された。

小学校の高学年になると更に人の顔色を……特にカスミちゃんの顔色を伺うようになった。

機嫌の悪い時にはあえてカスミちゃんには近づかずに距離をとり、機嫌が良さそうなときはカスミちゃんにあれこれと頼まれる前に自分から嫌な役を引き受けた。

そんな毎日に辟易していたときだった。真紀に声をかけてもらったのは。

『カスミちゃんに色々お願いされてるみたいだけど、大丈夫?無理してない?』

誰もいない教室でカスミちゃんに押しつけられたロッカー掃除をしているとき、真紀が声をかけてくれた。

『あっ、うん。大丈夫……ありがとう』

『あたしも手伝うよ。一緒の方が早く終わるでしょ?』

真紀は率先して手を貸してくれた。

同じクラスだけどあまり接点がなかった真紀が手を貸してくれたことが本当に嬉しかった。

今までずっとカスミちゃんにあれこれ押しつけられてきて心も体ももうボロボロだった。

そんな時、真紀がかけてくれた『大丈夫?無理してない?』というねぎらいの言葉にわたしの胸は熱くなった。