校門を抜けた瞬間、一歩も足を前へ動かすことができなくなってしまった。

行かなければいけないと分かっているのに体がいうことを聞いてくれない。

校舎を見上げる。今のわたしにとって学校はとにかく恐ろしい場所だった。

閉塞感のある逃げ場のない教室の中で悪意を向けられることがどんなに恐ろしいことかは、きっと経験した者でなければ分からないだろう。

みんなが軽い気持ちでしている悪口や仲間外れや無視は、相手にひどいダメージを与える。

手足が小刻みに震える。

体中の細胞という細胞がわたしが学校に入ることを拒絶していた。

「どうしたの?」

すると、突然背後から声をかけられた。

だ、誰……?わたしに声をかけてくるなんて。

ビクッと肩を震わせて恐る恐る振り返る。

「学校、いかないの?」

そこにいたのは隣のクラスの女の子だった。

「えっと……あの……」

「あぁ、ごめんね。エマです。神宮寺エマ。愛奈ちゃん、だよね?」

そう言って微笑んだ彼女にわたしの目は釘付けになった。

毛穴ひとつ見当たらない白くて綺麗な顔の中にある整ったパーツ。

まつ毛は長くてくるんっと上を向いているし、血色のいい唇から覗く歯は白くて整っている。

胸の下まであるこげ茶色の髪は地毛だろうか。この田舎町にこんな美貌を持つ高校生が転校してくることを誰が想像していただろうか。