「だからさ、どうして洗うなら聞いてくれなかったのよ!?」

「愛奈、あなた洗ってもらってる分際でお母さんを責めようとしているの?染み抜きまでして洗ってあげた私にそんなこと言っていいの?」

「もういい!!」

立ち上がると、母がガシッとわたしの腕を掴んだ。

「ちょっと待ちなさい」

そういうと、洗面所の棚から雑巾を取り出して私に手渡した。

「ここ、綺麗に掃除しなさい。一滴でも水が残っていたら許さないわ。あぁ、嫌だ。こんなことがお父さんに知れたら私が怒られちゃうんだからね」

こんな時に……掃除なんかしている心の余裕なんてこれっぽっちもない。

でも、やらないという選択はない。

母が洗面所から出て行くと、わたしは天を仰いだ。

もう全て、何もかもが嫌になっていた。

何もかもを投げ捨てて、身一つでどこかへ逃げてしまいたい。

今日眠り、明日目が覚めたら全くの別人になれていたらいいのに。

そうすれば――。

わたしは雑巾を握り締めたまま、しばらくの間放心状態になった。