「Yシャツ、脱いで廊下に置いておいて。いい?今すぐによ。まったく。仕事ばかり増やすんだから」

母は言葉の限りをつくしてわたしに嫌味を言い、最後までわたしを心配する様子などみせなかった。

部屋に入りルームウェアを手にしてから、ふと思い直す。

髪と首筋の辺りがまだベタベタしている。

この格好じゃ部屋に入ってもくつろげないだろう。

「シャワー浴びちゃおう」

わたしはシャワーを浴びるため、部屋を出てバスルームに向かった。


「ハァ……明日からどうすればいいんだろう」

シャワー中も目をつぶると浮かぶのは今日あった嫌な出来事だ。

真紀とケンカをしたこと、カスミちゃんに1万5千円取られたこと、佐知子とその友達からの嫌がらせや暴力、伊藤先生の退職の知らせ。

胸が張り裂けてしまいそうなことが立て続けに起こったせいでわたしの精神はすり減っていた。

バスルームの鏡に背中を向ける。

腰から背中にかけて大きなあざがいくつもできている。

これは相当な力で踏みつけられていた証拠だ。

容赦のないいじめにぞっとする。

カレンダーには卒業までの日数をカウントダウンするかのように×印を入れている。

その×が増える度にわたしの胸は躍った。

その×の数はわたしの自由への道しるべだったから。

でも、今日は×をかく気力すらない。

あと少しだけ、もう少しだけ……何かが起こっても必死にそう自分に言い聞かせていたけど、今回ばかりはそんなふうに前向きな気持ちにはなれなかった。