旦那様は懐妊初夜をご所望です~ワケあり夫婦なので子作りするとは聞いていません~


 ホテルを出た後は、夕食の惣菜を求めに景虎の車でデパートに寄ることにした。

 私が最初に駆け寄ったのは、コスメカウンター。

 だって、歌劇団メイクでデパ地下をウロウロしたくないもの。

 販売員さんの手でナチュラルメイクに戻してもらった私は、新作のメイク用品を何点か買い、上機嫌でその場を離れた。

「やっぱり、こっちの方が可愛いな」

 ずっと近くで見守っていた景虎が、私の手を握って言った。

 人がメイクをされているのを待つのは退屈だろうから、別のフロアを見てくればいいって言ったのに。

 彼は「何かあるといけないから」と、頑なに私から離れようとはしなかった。

 販売員さんはプロで、景虎には気を取られず、気持ちのいい接客をしてくれた。

「でしょう。あまりに可愛い色だから、うっかり買っちゃったよ」

 紙袋に入ったアイシャドウと、リップを掲げて見せる。どちらも新作だ。

 振袖にあわせた赤いアイシャドウは、歌劇団だし歌舞伎的でもあったので、普段遣いにはナチュラルカラーの方が断然好き。