ちょっと傷ついた私は、あとでおやつにしようと、余ったフレンチトーストにラップをかけ、景虎に話しかけたのだった。

「どういう理由で?」

「どういう、って……」

 彼の目はまったく笑っていない。

「もう一度恋を始めよう」と甘いセリフを吐いた彼とは別人みたい。実はドッペルなのかしらん?

「室長にも伝えたけど、あそこで断片的な記憶が戻ったのよ。いる時間を増やせば、連鎖的に他のことも思いだせそうだと思わない?」

「なんの根拠もない、希望的観測にすぎないな」

 取り付く島もない。ばっさりと切り捨てられた私は、くじけそうになる。

「言ったはずだ。無理に思いだす必要はない。俺はこれからも、君とこうして暮らしていけたらそれでいい」

 空になったコーヒーカップを流しに運ぶ彼のシャツの裾を、逃がすまいと引っ張った。

 しまわれていたシャツが、ペロンとズボンの外に出る。

「おい」

 迷惑そうに振り返る景虎に、勇気を出して言い返す。

「そう言ってくれるのはありがたいよ。でもね、それはあなたの気持ちであって、私は必ずしもそうとは思わない」