旦那様は懐妊初夜をご所望です~ワケあり夫婦なので子作りするとは聞いていません~


 前日の夜から用意していたセリフを無事に言い終え、ベテランさんに手土産を渡す。

 立ち上がったベテランさんは立ち上がってそれを受け取った。

「こちらこそ、丁寧にありがとうございます」

 長年の秘書経験で身に染みついた、綺麗な会釈。その角度にまたもや見覚えを感じる。

「しつ……ちょう……」

 そうだ、このベテランさんは秘書室長だ。いや、一番年長だから当たり前か。

 話す室長と原田さんの裏で、相変わらず忙しそうに仕事をしている二人を見つめる。

 三十代半ばの女性と、私と同じ年頃の女性。どちらも、なんとなく覚えている。

 やっぱりそうだ。この秘書室に立ち入った途端、なくした部分の記憶が揺さぶられている。

「これ、私のデスクですよね」

 主がいない寂しそうなデスクに近寄る。ブックエンドに挟まれたファイル、デスクカバーの下のメモ。

 引き出しを開けると、キャラクターがついたボールペンがたくさん出てきた。

「あ……これ、みんながお土産にくれた……」