足音を消すそれの上を歩くと、途中で『副社長室』のプレートを発見した。
ここで景虎が仕事をしているのか。
足を止めて見る。けど、すぐに歩を進めた。
仕事中だもの。顔を出して邪魔をしちゃ悪い。
副社長室をスルーし、突き当り手前で止まる。
「ここね」
正面のドアにはなんのプレートもかかっていない。
一番奥のドアには『社長室』と掲げられている、その隣が秘書室と聞いたからここで間違いない。
同僚たちは、私が事故で記憶喪失になったという事情を景虎と、その父である社長から聞いているそうだ。
一気に緊張した心をほぐすように、深呼吸を繰り返すこと五回。
やっと決心して、ダークブラウンのドアをノックした。
「失礼します」
ドアを開けると、中にいた三人の女性とひとりの男性がいっせいにこちらを向いた。
「ああっ、萌奈ちゃん!」
しっかりメイクをした綺麗なお姉さんが立ち上がり、こちらに駆け寄ってくる。
「事故に遭って記憶なくしたって? びっくりしたよ。生きててよかった!」



