ぎゅっと後ろから私を抱きしめ、首のにおいをかぐように鼻を寄せるから、くすぐったくて身をよじってしまう。
「大丈夫だって。ちょっとの時間だけだから」
「俺も一緒に行こうか」
このマンションに来た日から思っているけど、彼は過保護すぎる。
思春期の娘が父親に反抗するように、私は彼の腕から無理やり抜け出した。
「やめてよ。そんなことで仕事をさぼっちゃダメ」
実家がやっている会社だからって、適当に仕事をするようなお坊ちゃま、私は嫌いだ。
「わかっている」
彼はそっと手を放した。
「何かあったら、すぐに俺を呼べ」
頬を優しく撫でられ見つめられると、首から上全体が熱くなっていく。
「うん。……といっても、携帯がないんだった」
私の携帯は事故の際に手から吹っ飛び、割れた窓ガラスから外に出て、タイヤに踏みつぶされて壊れたらしい。
再起不能となった携帯は、私の手元に帰ってきていない。事故の証拠として警察に押収されたと母が言っていた。



