その代わり、お見舞いの品を送ってくれた。お礼もお返しもせずに退職と言うわけにはいかない。

 ついこの前まで勤めた職場の景色も、同僚の顔もわからないので、話しかけられてもどう返していいかわからない。というような不安はいくつもあるけど、とにかく行ってみよう。

「職場を見てみることもいい刺激になるかも」

 どんなに小さなことでも、何が記憶を取り戻す糸口になるかわからない。

「~すれば、なにか思い出すかも」が口癖になっている今日この頃。

 今のところ、新しく思いだせたことはない。

 景虎にはまだおあずけを食らわせている状態。だって、自分が何者かもわからないのに赤ちゃんを授かろうなんて、さすがに無理でしょ。

 彼はあれ以来無理やりなことをしないで、温かく私を見守っている。周りが焦ると私も焦って不安になってしまうので、ありがたい。

「まあ、行くのはいいけど短時間にしろよ。あと、誰かについていってもらうこと」

「お母さんとか? 社会人なのにお母さんが出てくるとかおかしくない?」