懇願されるように囁かれ、ますますこっちが悪いことをした気分になる。

「わかりました」

 これだけ広いベッドなら、密着しなくても二人で横になれる。

 私はベッドの端で、彼に背を向けて寝転ぶ。彼は宣言通り、無理やり触ってこようとはしなかった。

「おやすみ」

 静かにそれだけ言い、彼は電気を消した。

 背中で彼の気配を感じていると、やがてすうすうと規則的な寝息が聞こえてきた。

 ホッとする反面、とても申し訳なくなる。

 失った記憶が戻ることは、果たしてあるんだろうか。主治医は「わからない」の一点張りだった。

 私たち、これからうまくやっていけるのかな。

 本が好きだという共通点を見つけられたのは嬉しいけど、彼と私の意識には海よりも深い溝がある。

 一度生まれた不安はなかなか胸から消えず、眠りに落ちるまでにいつもより倍の時間がかかった。そんな風に感じた。