「早く子供を作ろう」

 耳元で囁かれ、体中に雷に打たれたような衝撃が走った。

 彼は本気だ。このままでは、流されるままいいようにされてしまう。それでいいの? ううん、よくない。

「待って待って、それはちょっと」

「君が言ったんだ。早く子供が欲しいと」

「言ったかもしれないけど、覚えてませんっ!」

 思い切り抵抗して彼の胸板を押し返した。

 体を離した景虎は、傷ついた表情で私を見返していた。

「そりゃあ、勝手に記憶喪失になった私が、全面的に悪いよ。でもねっ、なりたくてなったわけじゃないの。今の私からしたら、出会ったばかりの人と寝ろって言われているようなものなの」

 彼のことは嫌いでなくても、今の私の精神状態では、無理だ。

「もう少し落ち着くまで待って。私、別の場所で寝るから」

 部屋から出ていこうとすると、彼が私の手を掴んだ。といっても、痛くない力加減で。

「すまない。君の気持ちも考えずに」

 振り返ると、彼は目を伏せて言った。長いまつ毛の影が頬に模様を描く。

「無理に触れることはしない。だから、そんな寂しいことを言わないでくれ」