とはいえ、同居を渋っていたのにここで尻尾を振ったら、単純な女だと思われるかな。
座るのを躊躇っていると、鳴宮さんが椅子を引いてくれた。
ここまでされたら、座らないと失礼だよね……。
いやごめんなさい。正直に言います。お寿司が食べたいです。
「ありがとうございます」
お礼を言って座ると、正面に鳴宮さんが座った。
グラスにワインが注がれるのをわくわくした気持ちで見る。
取り皿とお箸を渡され、「いただきます」と手を合わせた。すると。
「ちょっと待って。俺の言うことをきかないと、この寿司は食べられません」
「へっ?」
おあずけを食らった私に、彼は意地悪そうに微笑む。
「俺のこと、苗字じゃなくて名前で呼んで」
私は箸をぽろりと落としそうになった。
やっぱり、今まで苗字で呼んでいたことを気にしていたんだ。
結婚相手から苗字で呼ばれたら、それはそれは微妙な気分だろう。
これに関しては、彼は何も悪くない。私が覚悟を決めればいいことだ。



